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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

新しい家族へ

第2話後編
更新日:2009.7.24
第2話「憤る」(後編)

◆独自の財源を確保する米国の高齢者施設◆

そんな私もこっぴどく叱られた思い出がある。

1988年から欧米の医療・介護の現場を巡礼するなか、前号で紹介したジョージア州立大学の教授 から「ニューヨーク郊外に全米でも名高いスキルドナースケア(医療・療養介護を行う生活施設)が ある」と誘われ「セント・パトリック」を訪問した。他のナーシングホーム(介護付き老人ホーム)が
月額6000jなのに対し、ここは8000jと安くない。

しかし、優れたホスピタリティやスタッフの職能スキルの高さがクチコミで評価され、ウェイティング
リスト(入居待機者)は数年先まで埋まっている。全米で名高い施設だから宮殿のような立派な建物 かと思ったら、驚くほどボロかった。

ところが、各所を巡った私には嗅覚のようなものが備わっている。女性管理者のリンチさんに会った 際に「ここは他の施設とは違う」と直感した。

リンチさんは「ヒラリー夫人(現国務長官)、先代ブッシュ大統領などが、このセント・パトリックで 皆さんチャリティー晩餐会やゴルフコンペを催してくれる」と自慢話をする。

その真意は「独自の財源」の確保。セント・パトリックでは、入居時に3年分の支払い保障があれば、 その後、スッテンテンの無一文になっても追い出されることはない。チャリティーやドネーション
(寄付)などで確保した財源によって最期まで生活を守り抜く。外部から干渉されず、運営は
不可侵になっている。驚きの仕組みをリンチさんに解説されたあと、建物内を見学していたとき、
その出来事は起こった。

◆叱責されて痛感した医療・介護の本質◆

そこは重度の認知症と要介護の重複障害のフロア。しかし、悪臭もなく、生活重視で賑やかな環境 が保たれている。

部屋で美しい女性がベッドメーキングをしていた。笑顔で声をかけてくれたので経歴を尋ねると、
在宅医療のPh.D.(博士号)を取得しているという。彼女の夢は「セント・パトリックで2年の研修を
終えた後、ホームケアのチームリーダーになること」。私は軽口のつもりで「あなたの名前すら認識 できない人たちのおむつ交換や掃除の毎日で、キャリアが磨けるのか?」と尋ねてみると、たちまち キッとした表情になって「kind a stupid!」と、とって返した。

そして「確かに毎日、リネン交換と生活介護に追われている。でも私がここを選んだ理由は、ここが 独自の財源、ホスピタリティ、ブランドを持っているから。その原点は介護と療養の質そのもの。
ゲストの満足が評判となり、その結果、いつも満室で安定運営されている。その財源があるから、
私たちは研修を受けることができる。すべてはお世話させていただいているゲストの満足から生ま れている。こんなこともわからない、あなたは馬鹿か!」と手痛く叱られた

医療・療養介護はプロフェッショナルによる究極のサービスでなければならないと痛感させられた
瞬間である。

「kind a stupid!」――全国の薬局・薬剤師の方々は、この叱りを受けたとき、
何に気づく? 何を変える?

(第3話につづく)次回8月7日(金)UP予定





※このコラムは「DRUG magazin」2009年6月号に掲載された連載を再掲載したものです。





闇に活路あり