更新日:2011.3.23.
第六章 「哲朗への手紙」 其の一
■ 「君を生んでいいものか 上」
哲朗、君は今年の春、高校生になった。相変わらずサッカーに夢中なようだが、今日は、君が生まれたときのことを話しておこうと思う。
父さんとお母さんが結婚したとき、最初に考えたのは子どものことだった。お母さんは、子どもをほしがったが、父さんの病気が生まれてくる赤ちゃんに遺伝するかどうかを、とても心配していて、「病院で検査してもらおう」と言った。
もちろん、父さんも子どもがほしいと思った。五年前亡くなったお祖父ちゃんのことは哲朗もよく知っているだろうが、父さんは中学生のころ、お祖父ちゃんにゴルフを教えてもらったり、温泉に連れていってもらったりした楽しい思い出がたくさんある。そのことは大人になった今でもずっと心の中に残っている。父さんの子どもが生まれたら、同じことをしてあげたいと思っていた。
しかし、難病を抱えた父さんには、とてもそんなことができる自信がなかった。君もわが家のアルバムを見て知っているとおり、結婚したころの父さんは、お母さんの手を借りながらも、何とか歩くことができた。
でも、病気はどんどん進行し、やがて一人では風呂にも入れなくなり、それどころか歯を磨くことも、歩くことも、食事ができなくなることもわかっていた。
そんな状態になるというのに、子どもが生まれて、はたして父親としての責任が果たせるかどうか不安でならなかった。
(次回につづく)
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