総合トップ > 春山 満について > メッセージ集 > もう一度この手で抱きしめたい もくじ
春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第六章其の六




更新日:2011.4.27.
第六章 「哲朗への手紙」 其の六


■ 「父さんが泣いた日 下」

「どないしたん?」
買い物から帰ってきたお母さんは、机の前に座っている父さんが、今にも泣き出しそうな大きな声で子守歌を歌っているのを見て、驚いたように言った。
「どないしたん、って、どないも、こないもあるか!今まで何をしてた!」
父さんは、お母さんを大声で怒鳴ってしまった。君はもう声が嗄(か)れて「ヒーッ、ヒーッ」と、笛の音のように喉を鳴らして泣くばかりだった。
「ごめん、ごめん。テッちゃん、遅くなってごめんね」

 お母さんの腕に抱かれ、おっぱいを吸いはじめると、君はそれまで泣いていたのが嘘のようにおとなしくなった。君が泣き止むと、父さんは悲しくなった。あまりにも自分が情けなかった。君と交代で、今度は父さんが大声で泣いた。お母さんをつい怒鳴ってしまったという反省もある。このときほど、父さんは自分の無力さを感じたことはなかったよ。

 わが子が目の前で泣いているのに、助けを求めているのに、そばへ寄ってあやしてやることもできない。悔しかった。目の前で、わが子が死にかけていても、おそらく父さんには何もできないだろう。こんな男が父親と言えるのだろうか。このときばかりは、さすがの父さんも、心が千切れるほどに辛かった。

 しかし、しばらくして涙が涸(か)れたころ、父さんは心に誓ったんだよ。
― それでもオレは、おまえの親父なんだ。この世にたった一人しかいないおまえの父親なんだ。おまえを抱いてやることも、あやしてやることもできない、こんなダルマのような父さんでも、父さんにできることは、一生かけて、精一杯してやるからな。父さんにできることなら、命をかけてしてやるからな―

 君が物ごころついたころ、君が見る父さんは、もう車椅子に座っていた。ヨチヨチとアヒルのように尻を振って歩く君は、車椅子が面白いのか、いつも車椅子に乗せてくれとせがんで、父さんの膝の上に乗っているとご機嫌だった。そう、今ちょうど父さんの膝の上にいる“イッちゃん”のように。

(次回につづく)





春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜
         
僕が取り戻したGood Time   闇に活路あり 僕がみた世界のGood Time 子供たちへ 壷中有天 新しい家族へ