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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第六章其の三




更新日:2011.4.6.
第六章 「哲朗への手紙」 其の三


■ 「車椅子に乗る決意 上」

 君がお母さんのお腹の中にいる五ヵ月目のころ、ある事件が起こった。父さんの靴を買いに行こうと、二人で出かけたときだった。
お母さんに支えてもらいながら商店街を歩いていると、突然、足から力が抜けて、父さんは転びそうになった。お母さんはあわてて父さんを支えようとしたが、そのとき、お母さんが顔をしかめた。お腹が痛いという。

 すぐに病院に行って診てもらうと、お腹の赤ちゃんが流産しかかっているという。お母さんは体の不自由な父さんのために、毎日たくさんのことをしなければならず、それがお母さんの体に負担をかけていたのだ。
ショックだった。父さんのせいだと思った。

 父さんはそのころ、車椅子に乗ることを拒否していた。病気が進行して、やがていつかは歩けなくなる。車椅子に乗らなければならなくなる。それがわかっているだけに、一日でも長く、一歩でも多く、自分の足で歩いていたかった。
そのころの父さんは、立てば何とか一〇メートルかそこらは歩けたが、座ると自分の力では立つことができなかった。そのたびにお母さんは父さんを抱き上げ、抱き下ろした。
しかし、そうしてきたことがお母さんに負担をかけ、そのうえお腹の中の赤ちゃんまで危険な目に遭わせることになってしまった。

 歩くことへの執着のために、お母さんや新しい命を犠牲にすることはできない。父さんが車椅子に乗る決心をしたのは、そのときだ。
幸い、お腹の中にいた君は無事だった。そして、順調に育ち、臨月を迎えた。

 あれは七月の暑い日だった。いよいよ生まれるという数日前から、お母さんは病院に入院した。父さんは、妹に付き添ってもらいながら、家で君が生まれてくるのを待っていた。すでに予定日は三日も過ぎていた。しかし、一向に生まれる気配がない。あの日も朝からやきもきしていると、昼近くになって病院から「生まれそうだ」と連絡があった。

 すぐに病院に駆けつけると、産婦人科の先生に言われた。
「陣痛が微弱なため誘発剤をかけたんですが、あまり効果がないんです。このままですと母体も赤ちゃんも危険です。自然分娩はむずかしいので帝王切開をしなければなりません……」
父さんは気が動転した。

(次回につづく)





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