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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第十章其の五




更新日:2012.9.5.
第十章 「悪魔を追い払う家」 其の五


■ 「難聴聾唖(なんちょうろうあ)の人と全盲の人のコミュニケーション 上」

 三軒目の家は、脊椎を損傷した女性の家だった。彼女は在宅でIBMの仕事をしている人だ。スミスさんに案内されてその女性の家の玄関のチャイムを嗚らすと、しばらくして車椅子に乗った彼女が現われた。
私は下手な英語で「ナイス・トゥ・ミーツ・ユー」と挨拶したが、返事がない。彼女は脊椎が悪いだけでなく、話すことも聞くこともできない難聴聾唖者だったのである。私たちは手話通訳を交えて家の中を案内してもらった。

 家の中に入るなり、私の目に止まったのは、壁やテーブルなどいたるところに飾られてある洒落たランプだった。ランプは、ときどき三つが一度に点滅したり、ときには一つひとつが順番に点いたりする。
「いい趣味をお待ちですね」
私が手話通訳を交えてそう言うと、彼女はニッコリと笑った。しかし、そのランプ類は単なる彼女の趣味ではなかった。ランプの光は、じつは彼女の耳だったのだ。そう言えば、耳の不自由な彼女には、私たちが押したチャイムの音は聞こえなかったはずである。

 コーヒーをご馳走になっているとき、一つのランプが点滅した。彼女は隣の部屋に私を連れていった。部屋の中央の机の上には、古びたコンピュータが一台置いてあった。彼女の仕事場のようだ。コンピュータの画面上にメールが送られてきている。彼女は、メールを読みながらキーを叩きはじめた。なるほど、これなら下半身とロと耳が不自由でも、家にいながらにして仕事ができる。私が感心していると、彼女は手話通訳を交えて、私に質問した。

「ミスター春山、私が今交信している相手はどんな人だと思う?」
彼女は、いたずらっぽく笑っている。アメリカ人一流のユーモアかと思い、
「まさか、アメリカ大統領じゃないでしょうね……」と答えると、彼女は言った。
「そのとおり、と言いたいところですが違いますよ。今、私がコンピュータを通して会話しているのは同じIBMの職場仲間なの。でもね……、彼女は全盲なのよ」

 私は、自分の耳を疑った。


(次回につづく)







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