更新日:2012.11.7.
第十章 「悪魔を追い払う家」 其の七
■ 「エクソシクト」
感心ばかりして興奮した私は、週末を兼ねて、スミスさんとともにアトランタ郊外のリゾート地で頭を冷やすことにした。
そのとき、スミスさんが私に尋ねた。
「ミスター春山。高齢者や要介護者と、その家族のために住宅改造を行なうとして、その最大のポイントはどこにあると思いますか」
私の頭の中にさまざまな答えが浮かんできたが、結局「わかりません」と答えるほかはなかった。どんな答えも、それまでに見せられたスミスさんのアイデアに勝るものはないと思われたからだ。
「それじゃあ、お教えしましょう。それはエクソシストになることですよ」
スミスさんの口から出た言葉に、私の頭はますます混乱するばかりだった。
『エクソシスト』というオカルト映画を見たことはあるが、それが住宅改造とどういう関係があるというのだろう。私のそんな混乱を楽しんでいるように、スミスさんは続けた。
「悪魔祓いですよ。ポイントは家の中にいる悪魔を追い払ってやればいいだけです」
スミスさんは、住宅を改造してほしいという依頼を受けると、その家に訪ねていき、最低でも一週間、理想的には二週間も泊まり込むという。その家族と一緒に生活をするのだ。最初の数日はゲストとして扱われるが、そのうち家族の一員とまではいかなくとも、居候のような立場になる。すると、他人行儀な態度や口ぶりだったのがいつもの調子に戻り、家族の普通の会話が飛び交うようになる。
「そうなると、しめたもの。この家にどんな悪魔が棲んでいるかがわかってくるんですよ。悪魔が棲んでいれば、その家の恐怖の正体がわかる」
恐怖といっても、映画のように家が軋んだり、ポルターガイスト現象が起こるということではない。体の不自由な人と、その人を介護する人が何に怯えているのかを探るのだ。
体の不自由な人は、対人関係や家の中での立場、あるいは自立の問題もあるだろう。そしてその人を介護しなければならない人は、介護の煩わしさや時間の口ス、自分の精神状態の不安定さなどに恐怖を抱く。どこにエクソシストが棲んでいるかさえわかれば、住宅の改造など簡単だと言うのである。
(次回につづく)
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