更新日:2012.10.3.
第十章 「悪魔を追い払う家」 其の六
■ 「難聴聾唖(なんちょうろうあ)の人と全盲の人のコミュニケーション 下」
「全盲ですって! だって目が見えない人じゃ、コンピュータのメールは読めませんよ」
私がそう言うと、友人のアンドリュー博士は笑いながら教えてくれた。
「彼女が叩いているキーはたしかに文字かもしれないが、相手に届くときは文字とは限らないだろう。文字を音声に変換できるコンピュータがあるとしたらどうかな」
私はようやく納得した。耳と口の不自由な難聴聾唖の人と、目の不自由な全盲の人がリアルタイムにコミュニケーションを楽しんでいるのだ。私は驚くと同時に、その素晴らしいアイデアに感心していた。
日本では情報化社会とかIT革命などという言葉が飛び交っているが、こうした変換ソフトはまだ売られていない。開発の技術に関してはアメリカに遅れているとは言えないが、アイデアの面でははるかに遅れている。
この日の体験は、私のその後の事業に大いに役立った。体の不自由な人にとっての家や生活の道具は、使う人の身になって作り出さなければならないことを痛感したのである。
その当時、オープンした「ハンディ・コープ」は、そのアイデアで高い評価を受けた。それだけの自負も持っていた。私のアイデアを採り入れたバリアフリー住宅は、一年間に五七軒も受注したほどだった。しかし、スミスさんの足元にも及ばない。
(次回につづく)
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