更新日:2012.12.5.
第十章 「悪魔を追い払う家」 其の八
■ 「わが家に潜む小さな悪魔 上」
私は、自分の家を建てるとき、このスミスさんの言葉を思い出していた。まずはわが家から心の恐怖を取り除かなければならない。
スミスさんの言葉を参考にしたわが家には、まず、トイレを除いて、私にとっては必要のない手すりはついてない。エレべーターはあるが、これも病院のような、清潔だが味もそっけもないものではなく、インテリアに凝った、木目調のエレべーターだ。
このほかにもいろいろな工夫はあるが、手すりについて言えば、これは由子がやがて年老いたときに、手すりを取り付けられるように、壁の中に芯材を施してある。これなら壁を壊さず、いつでも簡単に取り付けることができる。
二階の私たちの寝室の隣にある哲朗と龍二の部屋は、一五畳のワンルームにした。ワンルームだが、ドアと窓、空調などはニセット用意されている。しばらくの間、二人はこの部屋を一緒に使っていたが、哲朗が六年生になったころ、プライベートな空間がほしいと言いだした。
そのときのことを考えて、この部屋の壁面には、キャスター付きの一面のキャビネットを作っておいた。これを部屋の真ん中に移動させれば、即座に二部屋に変わるという仕掛けだ。キャビネットの裏側に隠れていた壁側からも本棚や引出しが使えるように細工は流々。
あるとき、建設省がわがバリアフリー住宅を参考のためにビデオに撮らせてほしいとやってきたことがある。ところが手すりもなければ、スロープらしいスロープもない。煉瓦作りのなだらかな玄関アプローチならあるけれど。
「春山さん、これじゃ参考になりませんね。ちっともバリアフリー住宅らしくない」
どうやら建設省の人たちは、まるで病院のような痛々しい住宅を想像していたらしいのだ。私はそんな家を作るつもりはなかった。私と由子、哲朗や龍二にとって便利で快適で違和感のない家を作りたかったのだ。
(次回につづく)
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