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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

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第四章其の六




更新日:2010.12.15.
第四章 「難病を幸運にする」 其の六


■ 「車椅子事件 下」

 結婚して一年ほど経ったころ、私は歩くのが困難になり、いよいよ車椅子が必要になった。

 車椅子は、使用する人の足の機能を代替するものだから、誰でも同じものですむというわけにはいかない。体の大きさや障害の程度はさまざまだから、それに合わせたものを選んだり、作ったりしなければならない。国立病院では、車椅子メーカーの担当者が来る日が決まっていて、私もその日に合わせて出向いていった。

 私が筋ジストロフィーで車椅子が必要になったことを告げると、メーカーの担当者は、病院の一角から古ぼけた一台の車椅子を押してきた。そしてそれに乗ってほしいという。由子に助けられて私がそれに腰を下ろすと、彼はすぐに口を開いた。
「春山さん、どないですかぁ」
私が、車椅子から振り向くと、彼は書類に何かを書き込んでいる。
「どないですかぁ、と言われても……」
私は車椅子に乗ったのは初めてである。当然、何らかの説明があると思っていたのだが、何の説明もない。いきなり「どないですか」と聞かれても答えようがない。

 シートの高さ、硬さから背もたれの角度、肘かけの位置など、チェックすべきことは相当にあるはずだが―と思っていたら、もうわかったと言わんばかりに「結構です」と言う。ちっとも「結構」ではない。車椅子は、これから私の足の機能を代替し、生活を支えるための大切な道具なのだ。わずか数分座らせただけで「結構です」とはどういうことだ。

 私は、激しい憤りを覚えた。
「おまえら、こうやって体の不自由な人の道具を作っているのか! ほかの患者さんはどうか知らんが、オレはゴメンや。車椅子はおまえのところでは作らん」

 私は、自分でも驚くほど荒々しい声で怒鳴っていた。私のあまりの剣幕に、驚いた医師が飛んできて説明を始めた。病院には車椅子を作る指定業者が出入りしており、医師の判定に従って車椅子が作られる、だからこの業者で作れ、と言うのである。

 私は、説明を聞いても合点がいかなかった。治療法なら医師の指示に従うし、検査なら検査技師の言うことを聞く。しかし、車椅子は私の足代わりとなる道具である。私が自分の体に合った車椅子を自分の金で作る。そのための業者がどうしていないのか。どうしてそういう業者を選べないのか。病院と指定業者が癒着しているのではないか、とさえ言いたくなる。

(次回につづく)





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