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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第四章其の七




更新日:2010.12.22.
第四章 「難病を幸運にする」 其の七


■ 「捨てられる車椅子」

「もういい! おまえのところでは絶対に作らん。オレは自分の車椅子を作ってくれる業者を探すから、もういい」
怒りが収まらずにいる私を、病院の廊下で遠巻きに見ている人たちがいた。筋ジストロフィーの患者さんやその家族である。その中に数人の車椅子に乗った人たちがいて、しばらくすると私に声をかけてきた。

「あなた、春山さん言うんですか」
私は、きっと彼らも同じ思いをしていて、「よくぞ言ってくれた」と共感してくれるものとばかり思っていた。しかし、彼らは意外なことを言ったのである。
「春山さん、あんた、贅沢や」
そう言って、笑うのである。
「えっ、何が贅沢なんですか?」
私は、思いもかけない彼らの言葉に面食らった。

「だって、初めて車椅子作るんやろ。最初から自分の思いどおりの車椅子に出会おうなんて、そういう考えに、そもそも無理があるんや」
「じゃ、みなさんはどうしているんですか」
彼らは、こう言うのである。最初は何もわからないが、あてがわれた車椅子に乗っているうちに、仲間のアドバイスや口コミによって自分の体に合うものを見つける。それまでに三台か四台は乗ってみなければわからない。だから、私のように一台目で満足するような車椅子を作れというのは贅沢すぎるのだと。

 私には、何のことか理解できなかった。
「じゃ、体に合わない車椅子はどうするんですか」
私がそう聞くと、彼らは顔を見合わせ、呆れたように笑いながら、こう言うのだった。
「そんなもん、捨てるよ。なんぼでも作ってくれるから」
今度は私が呆れて、ものが言えなかった。アルミ製の車椅子は、当時でも一台一四万円はした。それを簡単に「捨てる」と言うのだ。

 しかし、あとになってわかったのは、障害者は国から車椅子や介護用品などを「給付されている」ということだった。だが、障害者全員に、すべての物品が支給されるわけではない。どれくらいの収入があって、どんな障害を持っているかによって、もらえるものが異なってくる。
給付物品は車椅子や杖など体の機能を代替する「補装具」と、ポータブルトイレや介護用ベッドなどの「日常生活具」の二種類に大別されている。補装具は国が定めた基準で、日常生活具は都道府県が定めた基準で細かく指定されているのだ。

 つまり、障害があり経済的に自立できない人には、たいていの補装具も日常生活用具も、“タダ”で支給される仕組みになっている。なるほど、タダならいくらでも捨てることができる。

 私は当時からそれなりの年収があったから、国の補助対象にはならず、すべてを自費で購入しなければならなかった。障害者一人ひとりにはそれぞれの事情がある。働きたくても働けない人もいる。その現実を考えれば、国の給付を否定し、みんな自分で買えと言うつもりはない。しかし、そのとき、私は、どこかがおかしい、何かやり方が間違っていると思った。

(次回につづく)





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