更新日:2011.6.8.
第七章 「生命のサイコロ」 其のニ
■ 「親の怠慢 下」
イギリスではヘルスケア協会の専務理事と介護用品の輸出入やネットワークの拡大について話し合い、さらにスウェーデン、デンマークを訪れ、日本に戻ってきたときにはすでに十二月も半ばになっていた。
この間、哲朗と龍二は、私と由子のそれぞれの実家に交代で預かってもらっていた。久しぶりに帰ってきた私たちに、哲朗と龍二はむしゃぶりついてきた。
「いい子にしてたか。偉かったなあ。お土産たくさん買ってきたからな」
しばらくぶりにわが家に戻り、一家団欒の食卓を囲む。子どもたちの喜ぶ顔は、疲れ果てた私たちの心を癒してくれた。しかし、お土産で子どもたちのご機嫌をとっておけばいいというのは、明らかに親として怠慢だった。
私は仕事にかまけて、子どもたちに目を向けていなかった。由子は由子で、子どもたちのことを気にしながらも、ビジネスに大きな転機を迎えていた私をサポートすることに一心だった。
「ねえ、私たち、ちょっと忙しすぎるんとちがう?哲朗も龍二も何か寂しそうやったねぇ」
由子が、ポツリと言った。
「ああ、ずっと預けっぱなしやったしな。これからは、ちょっと子どもたちのことも考えんとあかんな」
ロ先ではそんなことを言っていたが、私の頭の中は業務を拡大させることでいっぱいだった。親がなくとも子は元気に育つだろうと、あまり深刻に考えてはいなかった。
(次回につづく)
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