更新日:2011.6.15.
第七章 「生命のサイコロ」 其の三
■ 「緊急入院 上」
今思えば、哲朗の食欲が落ち、顔色が悪くなりだしたのはそのころだった。そして、クリスマスも過ぎ、大晦日を迎えた日、哲朗は急に頭が痛いと言いだした。
「お父さん、しんどい……」
そう訴える哲朗を休日急病診療所に連れていくと、医者は、単なる風邪だろうと言う。処方してもらった薬を飲ませると、頭の痛みは消え、哲朗はいつものように走り回っていた。
ところが、しばらくすると、また急に痛がりだす。今度は「頭が痛い、割れそうや、お母さん何とかして……」とまで言いだす。薬を飲ませると痛みが消えるので、やはり風邪かと安心していると、またしばらくして頭を抱えだす。そうこうしているうちに新年を迎え、私たち一家は、私の両親のもとへ年始の挨拶に出かけた。
「頭が痛い。ガンガン音がするみたいや、ウウー」
再び哲朗が、苦しみはじめた。子どもだから少し大げさに訴えているのだろうが、どうも様子が変だ。本当に単なる風邪なのか。
念のため、元日にもう一度、休日救急病院へ由子が哲朗を連れていった。しかし、医師は風邪と診断し、風邪薬を処方してくれるだけだった。詳しい検査をしようとも言ってはくれない。
医師から出された薬を飲ませると、痛みは止まる。子どもは遊びに気が向く。しかし、しばらくすると、また「頭が痛い」とうずくまってしまう。
「静かにしてなきや、治らないよ」
由子に叱られ、薬を飲んで布団の中にもぐり込むという状態を繰り返した。
その日の夕方、私たちは由子の実家へ行った。実家では、元日の夜にみんなで花札をやるのが恒例となっている。哲朗は相変わらず、すっきりしない表情で遊び回っていた。だが、眠りに就いた哲朗の顔からは血の気が引いていた。
(次回につづく)
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