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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第七章其の七




更新日:2011.7.13.
第七章 「生命のサイコロ」 其の七


■ 「母は強し 上」

「 ― もし命を取り留めても、悪性の場合は、重大な障害が残ることになります」
重大な障害とは、脳性麻痺のことである。私は、もう一人の自分が医師の言葉を聞いているようにさえ思えた。
これは現実やない。何ちゅう運命や。筋ジストロフィーの遺伝する確率はほとんどないと言われて、哲朗を生み、成長を楽しみにしていた矢先に、この有り様である。

「私が悪いんや。この二、三ヵ月、忙しさにかまけて子どもに手が回らんかった。テッちゃんがあんなにサインを送っていたのに……」
由子は、そう言って泣きじゃくった。注意深い親なら気づいていたはずのサインだった。介護だ福祉だと、たいそうなことを言って走り回っていても、自分の子どもの病気一つ見抜けなかった。いったいオレは何をやってきたんや。私も由子も自らを責める言葉しか見つからなかった。

 しかし、泣いて哲朗が助かるわけではない。仕事始めの五日から、私は通常どおり出社し、仕事に没頭した。
「社長、病院に行かれたほうがいいんじゃないんですか」
会社では社員たちが気づかってくれたが、私が哲朗のそばについていて何ができるというのだろうか。
「オレがついてても何の役にも立たへん。かえって邪魔になるだけや。その代わり、夕方には少し早く上がらせてもらうからな」

 由子も会社を休むことはなかった。朝から昼までは私の両親が交代で哲朗の看病をし、昼までに仕事を片付けた由子が病院へ駆けつける。そして私は、業務を終えたあと、夕刻に病院に入る。そんな生活が始まった。

(次回につづく)





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