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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第九章其の三




更新日:2011.10.19.
第九章 「苦難に克つということ」 其の三


■ 「難病を笑い飛ばす強さ」

 あの日もサンデッキで風に吹かれていた午後のことである。
NHKが私の福祉ビジネスの番組を作りたいと取材に来ていた。ディレクターとは旧知の仲で、彼は私たち夫婦のことをよく知っている。取材の途中で一服しようということになり、カメラを回すのをやめ、私たちは世間話を始めた。

「それにしても、本当にいつも夫婦仲がいいですね」
お世辞半分もあるだろうが、彼がそう言った。
そのとき、お茶を運んできた由子が、いたずらっぽく笑いながら口をはさんだ。
「私たち、どうして仲がいいか教えましょうか」
私は、また、くだらないことを言うのではないか、とニヤニヤして由子を見たが、彼女はそんな私のことなどお構いなしに続けた。

「私たちの夫婦仲がいいのは、この人が難病になったからですよ。この人、こんな病気になっていなかったら、北の新地やミナミを毎晩飲み歩くわ、ゴルフに行くわ、女遊びはするわで大変だったと思いますよ。そりゃあ、根っから仕事が好きな人だから、病気に関係なしに仕事だけは一生懸命したと思いますけど、家庭のほうはとっくに崩壊して離婚してますよ。それが、この病気で手も足も出ないようになったでしょう。もう今は好きな仕事をするだけですよ。ハハハ……。だから仲がいいんですよ、私たち」

 私は、由子のこの言葉に、思わず声をあげて笑ってしまった。一方、ディレクターのほうは笑うわけにもいかず、また、そのとおりだと頷くわけにもいかず、困ったような顔をしてあわててお茶をロに運んでいた。
私は嬉しかった。いつの間にか、由子はこのような表現で私の難病を笑い飛ばす強さを身につけていた。

 そのとき私は、自分の中でわずかに燻(くすぶ)りつづけていた体に対する未練と、病気への憎悪が完全に溶けたような気がした。どんなに足掻(あが)いても治らないとわかってはいても、心のどこかに未練と憎悪が固いシコリのように残っていた。しかし、由子は私より早くこうした感情を克服していたのだ。それが、ディレクターに対する答えに表われていた。

(次回につづく)





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