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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第九章其の七




更新日:2012.1.4.
第九章 「苦難に克つということ」 其の七


■ 「うちのお父さん、頭イカれてんの」

 由子が私の難病を笑い飛ばす強さを持つようになったからか、子どもたちも私の病気を笑えるようになった。

 家族旅行へ出かけるため、伊丹空港に向かったときのことだ。私は出張や講演などで、年に100回以上、飛行機を利用するから、チェックイン・カウンターではちょっとした顔なじみになっている。
だが、その日はカウンターに顔見知りがおらず、代わりに新人らしい若い女性がいた。由子が手荷物を預け、売店に買い物に行っている間、その女性が丁寧な言葉づかいで私に尋ねてきた。

「お客さま、恐れ入りますが、業務上記入しなければなりませんのでお聞きしますが、お体のどこが悪いのか、教えていただけますでしょうか……」
車椅子の私を前にし、彼女は緊張した様子だった。もちろん、その質問が失礼だとは、私は一向に思わない。普段なら顔見知りの担当者がいるので、そんなことを聞かれないだけのことだ。

 私が返事をしようとした瞬間、横で聞いていた哲朗が先にロを開いた。
「あのね、うちのお父さん、頭イカれてんの」
そう言って、私のほうを見てニヤッと笑った。私は思わず吹き出してしまった。カウンターの女性は、一瞬凍りついたように立ち尽くし、そしてあわてて申し訳なさそうに言った。
「あっ、たいへん失礼いたしました……」

 哲朗は軽い冗談のつもりで言ったのだろうが、私にはその言葉が妙に嬉しかった。哲朗にとって、私の病気はけっして深刻なものではなく、冗談のネタにできるくらいのことになっているのがわかったからだ。
哲朗と龍二にとって、車椅子に乗っている父親の姿は、特殊なものではなくなっていた。私の姿をすでに違和感のない風景として捉えることができるようになっていた。


(次回につづく)





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