更新日:2013.4.3.
第十一章 「限りある命を生きる」 其の三
■ 「外に出るのが怖い 中」
「……君の言うとおりだね。そう、世の中はとても怖いところだと私も思う。悪い人も多いし、騙す人もたしかにいる。体の不自由な人を指さして笑う人もいる。でもね、悪い人もいるけど、いい人はその何倍もいるんだ。だから、心配しなくてもいいよ」
そう言いながらも、私は自分の言葉に確信が持てなかった。心の中で、何とか少年の不安を取り除いてあげなければならないと思った。
「たとえば、君が車椅子やストレッチャーで外に出て、階段にぶつかったとしよう。もちろん、君は自分の力では昇れない。そこで、そばを通った人に頼んだとする。一〇人のうち三人か四人は君を無視して行ってしまうかもしれない。だけど、必ず六人か七人は手伝ってくれるはずや。
でもね、その前に君が心に決めておかなければならないことがあると思うんや。それは、まず自分の体が不自由だと認めること。でも、それだけではダメなんだ。自分は不自由であっても、立派な人間だという自信を持つこと。
そう心に決めることができたら、そばを通った人にもう一度、こう声をかけてみたらどうだろう。『スミマセン、ボクは体が悪くて階段を昇れませんから手を貸してください』と。それも明るく、はっきりと言うんや。その人が一人で君のことを待ち上げられなかったら、周りの人に声をかけてくれるはずや。そして、忘れてならないことがある。最後に君のほうから『どうもありがとうございました』と爽やかに言うこと。きっと相手は君よりもっと爽やかに『いいえ、どういたしまして』と返してくれるだろう。これが当たり前の人間と人間のつながりなんだ。大丈夫、心配しなくていいよ」
(次回につづく)
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