更新日:2012.5.16
第六章 ヨーロッパの光と影 其の五
U 寝たきり老人をつくらない
欧米諸国に「寝たきり」という言葉はない。
ベッドに起き上がれるお年寄りならば、
服を着て、靴を履き、ソファに坐る。
■ イギリスの民間施設 上
イギリスで見逃してはならない動きに、ここ10年くらいの間に見違えるように発展した民営の福祉施設があります。ぼくは今回その民営施設のひとつで、とても印象に残る介護の実態に出会いました。
それは人間というものに対する考え方が、日本とはまるで違うものでした。1991年に設立されたその施設は、マナーコートという名で、イギリス有数の医療保険機関が運営しています。行政による運営補助は一切受けていませんが、入所率は100%で、適正な利潤をあげています。
このマナーコートは、ロンドンでも面白いエリアにありました。ロンドン市内にはエスニック・マイノリティと呼ばれる、かつてイギリスが植民地にしていた人々が住むエリアがあるのですが、マナーコートはその真ん中にあったのです。したがって入居者もインドやパキスタンの労働者階級の人々が多いのが特徴でした。
施設は全部で120床あり、30床ずつ4つのウイングに分かれていました。この4つの分け方がユニークでした。それぞれのウイングには樹の名前がついていて、ウィロー(柳寮)には介護が必要な高齢者、ビーチ(ぶな寮)には痴呆者、ラーチ(から松寮)には問題行動のある重度痴呆者、そしてシカムア(すずかけ寮)にはお年寄りのほか、若年層の難病の方々が入所していました。
(次回につづく)
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