更新日:2014.2.19
第六章 ヨーロッパの光と影 其の二十六
Y テーマパーク型施設の実験
施設のなかの廊下は“ストリート”と呼ばれ、
理髪店から雑貨屋まで、40〜50年前の町の様子が
とても精巧に再現されていた。
■ テーマパーク型のナーシングホーム 上
次に向かったのは、ホバート市内から車で40分のところにあるカランビン・ナーシングホームでした。オーストラリアのなかでも人口の低いタスマニア州では、いろいろな実験的試みが行われ、それがうまくいくとオーストラリア中に広がっていきます。このカランビン・ナーシングホームも、非常にユニークな、新しいスタイルの施設になっていました。
もともと総合病院として建てられた施設ですが、1966年に非営利事業のナーシングホームとして営業を開始、現在のかたちになったのは3年前です。当時その設計が話題になったほど珍しい施設で、オーストラリアはじめてのライフ・ケア型ナーシングホームとしても注目されています。
何が珍しいのかというと、施設全体が過去にタイムトラベルをしたようなテーマパークになっているのです。ぼくが訪ねたとき、施設を設計建築したロバート・モリスナー当人が、その理由をこんなふうに説明してくれました。
「この地域は古くから、ビールの原料となるホップの生産地でした。そのため人々の思い出や原風景というのはホップの収穫祭や乾燥庫なのです。私が最も重要だと考えているのは、その人が働き盛りだった40歳(フォーティーズ)の頃の記憶です。人はその頃のことを大変素晴らしかったと考えるもので、建物や周囲の様子を、とても生き生きと、はっきりと記憶しています。私はその風景をナーシングホームの環境に取り入れることを考えたのです」
(次回につづく)
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