更新日:2014.3.19
第六章 ヨーロッパの光と影 其の二十七
Y テーマパーク型施設の実験
■ テーマパーク型のナーシングホーム 下
施設のなかの廊下は“ストリート”と呼ばれ、40〜50年前の町の様子がとても精巧に再現されていました。地域の人々の思い出ぶかいもの、たとえば水不足のために作られた雨水をためておくタンクや、当時の理髪店や雑貨店などが、小物を含めて忠実に再現され、部屋の壁や扉に使われている木は、その当時のものができるだけ使われていました。現代的な設備や道具類はうまく扉などに隠され、雰囲気を壊さないように工夫されています。
つまり施設全体が、まるでホップ工場の従業員寄宿者のようになっていたのです。ロバートさんの話によれば、ここにあるものは、すべてそのままの形でクレーンによって運ばれてきたということでした。屋外にあった古ぼけたトイレも、当時のホップ工場で本当に使われていたものでした。
公立の施設ということで、運営費は要介護度にあわせて出ていますが、その何割かは入居者本人の負担でまかなわれています。現在入居者は46名で満室状態、42歳から99歳の老人までが暮らしていて、うち痴呆の割合は5割程度でした。
ここでは終身預かりも行っていますが、「クオリティ・オブ・ライフ(人生の質)」を高めることを重要視しているために、医療措置は最低限に抑える方針がとられています。そのため医者はこの施設には常駐せず、近隣に住むファミリードクターが、治療から最期の看取りまでを担当しているとのことでした。施設内では、ストリートごとに痴呆と一般を区別してありましたが、共有部分があるほうが痴呆者にはいい影響を与えるとの考えから、食堂やリビングは開放されていました。
(次回につづく)
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