更新日:2012.12.19
第六章 ヨーロッパの光と影 其の十二
V フランスで見た老いの覚悟
■ 命を見切る覚悟 上
ぼくはこれは、フランスの新しい民間施設の大成功例のひとつだと思いました。中の調度もいい、色もいい、システムもいい。そして施設の稼動率は90%を超えているといいます。でもいちばん驚いたのは、スタッフが食堂や受付を含めてたった60人しかいないということでした。医療とか介護職が約30名しかいないのです。
103名を30名で見て、もし入居者の多くが重度の要介護度になったらどうするのかと訊きましたら、そのマネージャーは「十分やっていけます」といいました。ぼくの質問に対して、なんでそんな質問をするのか?とけげんそうな態度なのです。「ちゃんと回転しているから大丈夫です」と、彼女ははっきりいいました。つまり入居者はどんどん亡くなっていく。だから十分に回転してやっていけるのだ、というのです。
ここでは、老いをむかえた段階で、医療というものが切断されるのです。ヨーロッパでは基本的に介護の段階で中途半端な医療は行いません。ヨーロッパに限らず、アメリカでもオーストラリアでも、介護というゾーンに入ると、だいだい医療は切断します。風邪薬や頭痛薬は出しても、日本のようにただ生かせることを目的とした高齢者医療というものはやらないのです。その代わり、いかに生きるかということを、つまりお年寄りの心を、最期までしっかりとプロとして支えていきます。
ぼくはここに、非常に厳しい命の見切りと選択、それを純然と据える国民の潔さ、その現実を踏まえて高齢者住宅をきちんと運営していくマネジメントのすごさを見た思いがしました。
(次回につづく)
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